題名は文の途中で止まっている
Whisfloの譜面名は 「Hela’r」ですが、ウェールズ語として完全な曲名ではありません。資料上の曲は 「Hela’r Ysgyfarnog」、つまり「野兎狩り」です。“Hela”が狩ること、’rが定冠詞の短縮形なので、Hela’rだけなら「その……を狩る」と対象を言わずに終わります。
古い譜本や目録では最後の語が Ysgyfarnog、’Sgyfarnog、Sgwarnog、Scwarnog と揺れます。正書法、音変化、古い活字、目録転記が影響していますが、英訳は一貫して Hunting the Hare です。
したがって現行ページ名にはHela’rを残し、歴史的な曲目にはHela’r Ysgyfarnogを使います。短い題を単に“The Hunt”とするのは、文法上の省略と野兎の両方を隠します。
ウェールズ曲をめぐる国境横断の印刷史
初期資料の一つはEdward Jonesが1784年にロンドンで出版した 『Musical and Poetical Relicks of the Welsh Bards』です。後にウェールズ公付きハープ奏者となったJonesは、旋律、詩、楽器、吟遊詩人文化を集め、そこに “Hunting the Hare” を収録しました。
これは1784年までにウェールズ音楽として保存・提示されていた強い証拠です。ただし国家的レパートリーを構成する本には、編集者の選択、命名、編曲も働きます。掲載だけで全音型の出生地までは確定しません。
University of SheffieldのCelia Pendleburyは、さらに重要な比較を示しました。Jones版は、ロンドンのThompson家が 1777年に刊行した舞曲の一曲と対応する“concordance”だとしています。
この先行するイングランド印刷譜は、曲からウェールズ性を奪いません。旋律は出版、舞踏会、手稿、軍隊、劇場、家庭音楽を通して移動し、別の土地で大切な文化になるからです。しかし「太古のケルト世界から一切変わらず、ウェールズだけで伝承」という物語は裏付けられません。
より正確には、18世紀ブリテンの舞曲群に属し、ウェールズの印刷国民曲集に入り、長くウェールズの音楽的自己像を担った旋律です。
収集は保存であると同時に編集
ウェールズ国立図書館はJonesの本を伝統音楽収集史に位置づけています。収集資料は貴重ですが、選曲、題名、和声、翻訳、販売の判断から自由ではありません。
Nicholas Bennettの 『Alawon fy Ngwlad』は後代の好例です。Bennettが集めた700以上の旋律からD. Emlyn Evansが500曲を選び編曲し、1896年に二巻で刊行。第二巻の “Hela’r Ysgyfarnog — Hunting the Hare” は、ハープまたはピアノ向けの短い Allegro moderato です。
ページは曲名とレパートリーを確認させますが、現場の無加工録音ではありません。和声、鍵盤配置、速度語、配列は編集結果です。「国民音楽」の出版は伝統を保存しながら見せ方も作ります。
旋律が今日の国境を越えたとしても、ウェールズでの帰属は失われません。移動、記憶、再利用こそ伝統を形成する場合があります。
舞曲名から公的な歌へ
1887年ロンドンのNational Eisteddfod of Walesのプログラムには“Hela’r ’Sgyfarnog”が記載されています。1890年代の大規模曲集以前から、公式なウェールズ文化公演に題名が存在した証拠です。
Joseph Parryが編曲し、David Rowlandsが英語・ウェールズ語詞を編集した『Cambrian Minstrelsie』は、後に “Hunting the Hare / Hela’r Scwarnog”を掲載しました。声とピアノ、トニック・ソルファ、二言語詞、解説、追加節は、器楽素材が歌い手向けに作り直されたことを示します。
ある詞は丘の夜明け、角笛、跳ねる馬、猟犬、村人、野を横切る追跡を描きます。Llew Tegidに結びつく別のウェールズ語詞も狩りへ人を呼びますが、Rowlands版の逐語訳ではありません。
旋律と各歌詞には重なるが異なる年代があります。19世紀末の詞を、古い曲に合うというだけで「太古の原詞」と呼ぶことはできません。
1906年の新しい詞と古い韻律
Welsh Folk-Song Societyの回想によると、協会創立会議の 1906年、BangorのMaldwyn EvansがHela’r Sgyfarnogに新しい詞を付けて歌いました。参加者は一音一音節の書法を新しい改善と思いましたが、後に歌の「Elizabethan metre」と一致すると気づきました。
これは民謡復興の実作業を示します。古い物を発見するだけでなく、新詞を書き、韻律を分析し、演奏を組み、国民歌を議論したのです。
古い韻律関係は示されても、現存する全歌詞が16世紀作とは言えません。記録自身が当日の詞を“new words”と呼びます。旋律、韻律、特定の歌詞は別々の時代を持ち得ます。
後の『The New National Song Book』は題名をLlew Tegidと結び、他書は別の二言語詞を採用します。唯一の標準歌詞はありません。
ハープ、弦楽、ギターへの展開
Pencerdd Gwaliaの称号を持ち、Victoria女王のハープ奏者だったJohn Thomasは、声と二台ハープの形に編曲しました。これはThomasを原曲作曲者にする証拠ではなく、伝統曲が演奏会文化へ移った記録です。
ウェールズ国立図書館はDavid Harriesの1952年弦楽五重奏 『Introduction and Allegro Scherzoso』を所蔵します。“Hun Gwenllian”と“Hela’r ’Sgyfarnog”を素材にし、1952年AberystwythのNational Eisteddfodで作曲賞を受け、1953年に初演、1959年に管弦楽版へ改訂されました。
Stephen Gossは2008年、二台ギター用 『Six Welsh Folksongs』の最後にこの曲を置きました。活発な狩猟歌と説明し、各民謡の性格が隠れないよう簡潔に編曲しています。
声、ハープ、弦、ギター、フルート、ピアノが旋律を描き直します。伝統は固定標本ではなく、新作の材料でもあります。
Nantgarw舞踊との距離
Welsh Folk Dance Societyのデータベースには Hela’r SgwarnogというNantgarw様式のハンカチ舞踊があります。現代演奏ではホーンパイプ風の跳ねを使うこともあります。
しかし現代史は、それを20世紀後半の復興レパートリーに置きます。1784年の旋律が常に同じ振付と一体だったことや、古代から切れずに続くMorris舞踊を証明しません。
これは生きた伝統です。復興者が受け継いだ様式の中で再構成・創作し、旧素材に新しい社会生活を与えました。その創造を消して全要素を古代化する方が不正確です。
狩猟題材への倫理感も変わりました。歴史詞は角笛、馬、犬、速度を楽しみます。現代奏者は文化的情景として扱い、野兎狩りを支持しない選択もできます。
完全な伝統旋律を演奏する
Whisfloは現在、資料にある Cメジャー、6/8拍子の旋律に従います。反復を展開した24小節は、4小節のAを2回、8小節のBを2回演奏します。音域は C4–F5、七つの自然音を使い、スライドは押しません。
一小節を付点四分音符二拍で数えます。四分音符168 BPMは資料の付点四分音符112と同速です。まず第1–4小節のC5–C4オクターブ跳躍とE4–F4–G4上行を練習します。
B部はE5–D5–C5の速い型で始まりF5へ達してA素材へ戻ります。前半4小節を分けて練習し、4+4+8+8の形を保ちます。
最終確認:2026年8月10日
典拠と参考資料
- 01 Hela'r Sgwarnog / Hunting the Hare — traditional Welsh tune in ABC notation ABCnotation / John Chambers tune collection
- 02 Musical and Poetical Relicks of the Welsh Bards Internet Archive / Open Library · 1784
- 03 Musical and Poetical Relicks of the Welsh Bards Yale Center for British Art · 1784
- 04 Jigs, Reels and Hornpipes: A History of “Traditional” Dance Tunes of Britain and Ireland White Rose eTheses / University of Sheffield · 2015
- 05 Alawon fy Ngwlad, volume 2 — Hela’r Ysgyfarnog IMSLP scan / Newtown: Phillips & Son · 1896
- 06 Welsh traditional music National Library of Wales
- 07 Cambrian Minstrelsie, volume IV — Hunting the Hare / Hela’r Scwarnog National Library of New Zealand · 1896
- 08 The National Eisteddfod of Wales, London, 1887 — programme Internet Archive / Wikimedia Commons · 1887
- 09 Canu Gwerin 18 — account of the Welsh Folk-Song Society’s formation Welsh Folk-Song Society · 1995
- 10 The New National Song Book, volume I National Library of New Zealand · 1957
- 11 David Harries Music Manuscripts National Library of Wales · 2022
- 12 Incantations: Duo Melus programme — Stephen Goss, Six Welsh Folksongs Royal Holloway, University of London · 2025
- 13 Dance and tune database Welsh Folk Dance Society